2021.08.19

働く

【農業男子】伊藤さんが描く都市農業の姿は「仕事帰りに気軽に立ち寄り、野菜を収穫できる“農業テーマパーク”」

東京都調布市で「伊藤農園 asobibatake」を営む農業男子、伊藤彰一さん。体験農場を毎夏開催し、農業の魅力を伝える伊藤さんは、「Agrihub(アグリハブ)」という農作業管理アプリの開発エンジニアでもあります。エンジニアから農家という一見全く異なる業界へ転身した理由、そして農業への熱き想いを聞きました。



収穫のわくわく感、きっと子どもも大人も楽しいはず

1ヘクタールの農地で年間30品目を作る伊藤農園。400年以上続く農家に生まれた伊藤さんは、エンジニアの経験を経て就農し、今年で5年目を迎えます。



エンジニアから農家への転身の裏にはどんな思いがあったのでしょうか。

「農家以外の人に、農業の体験をして欲しかったんです」と伊藤さんは言います。



電子工学を学んでいた大学時代から一人暮らしをしていた伊藤さん。たまに家に帰ってきては収穫の手伝いをするのが楽しかった、と振り返ります。

「作業中に野菜を摘み取って食べるとおいしいし、トラクターに乗るのもわくわくして。これはきっと子どもだけじゃなくて大人も楽しいはずだ! と思いました」(伊藤さん)



作物を育てる楽しさや大変さ、とれたて野菜のおいしさを楽しく伝えられる場にしたいと思い、農園名は「伊藤農園asobibatake」と名付けました。

「目指すは“気軽に遊びにこれる畑”です」(伊藤さん)

丈夫な野菜を育てれば、思い切り収穫してもらえる

就農した年から始めた収穫体験は、今年で5年目。

実は、一生懸命農作業をしている人ほど、畑に人を入れることは「怖いこと」ではないかと伊藤さんは言います。



「通常、トマトは“1本仕立て”といって、大切に大きく育てていきます。収穫するときにもコツがあって、慣れない人が実をもぐと、枝が折れてしまうことがある。そうすると、収量ががくんと減ったりするんです。失敗が許されないからこそ、畑に人を入れるには勇気が必要だと思います」(伊藤さん)



自身が目指す農園として、大人にも子どもにも畑に来てもらい、その場で味わったり収穫したり、思いっきり畑を楽しんでほしいと考える伊藤さん。栽培法として採用したのは一般には珍しいトマトの「ソバージュ栽培」です。



「脇芽を取らずに、ぼさぼさに伸び広がるように仕立てるソバージュ栽培は、1本枝が折れたとしても、さほどダメージはありません。それに、そもそもたくましい枝ですから、なかなか折れないんです」(伊藤さん)



食育と難しく考えるより、とれたての新鮮なおいしさを味わってもらうことが、農業の重要性を感じてもらうために一番早道だ、と考えています。

会社帰りに野菜を収穫できる文化を広めたい

「ミニトマト狩り」と名付けた夏休み期間の収穫体験では、「トスカーナ バイオレット」「プチぷよ」「フルティカ」「サンマルツァーノ リゼルバ」「甘っこ」などの個性豊かなトマトを食べ比べできます。


左が加熱して食べてもおいしい「サンマルツァーノ リゼルバ」、右がぶどうのような風味の珍しい品種「トスカーナ バイオレット

「ふだんはトマト嫌いの子どもがパクパク食べてくれたり、こんなふうにトマトがなっているのを知らなかった、と驚いてくれたり、家庭菜園をされている方が『味が全然違うね』と感動してくださったり。お客さんの声を聞けるのがなによりうれしいですね」と伊藤さん。


枝豆畑。「新鮮な枝豆はすぐに茹でて味わっていただきたいです」

ゆくゆくは、農園を訪れた人がいつでも収穫ができる体制を実現したいと考えているそう。そんな伊藤さんは「都会の住宅街にある農家だからこそ可能性がたくさんあるはず」と話します。



「“野菜はスーパーで買うだけではなく、畑でとるもの”という文化があってもいいはず。会社帰りに『今日は畑に寄ってなすを収穫して、帰ったらビールを飲もうかな』というふうな生活文化を根付かせたい。それがビジネスになれば、都市農業は生き残っていけるはずです」(伊藤さん)



今年、夏休み期間に収穫できるのは、ミニトマト、なす、万願寺唐辛子、唐辛子、ピーマン、枝豆、オクラなど。


※時期によって収穫できるものが異なる場合があります

伊藤農園へ、とれたて野菜が実る姿と味に出会いに行ってみませんか?







伊藤農園asobibatake

伊藤彰一さん

東京都調布市、京王線仙川駅から徒歩3分、住宅街の中にある農園。400年以上続く農家を継承し2016年に就農。1ヘクタールの農地で年間30品目の野菜を育て、近隣スーパーの直売コーナーで販売する他、学校給食やレストランなどに提供する。毎年夏休みシーズンには「ミニトマト狩り」「枝豆収穫祭」「夏野菜収穫体験」などのイベントを開催して大人気。大学時代に電子工学を専攻し、卒業後はITベンチャーでシステムエンジニアとして人事・会計などの業務ソフトウェアやアプリ開発に携わった。伊藤さんが開発した個人農家向け栽培管理無料アプリ「Agrihub(アグリハブ)」ユーザーは現在1万6000人を超える。
ホームページはhttps://itonouen-sengawa.studio.site/
アグリハブについてはこちら

写真/石塚修平 取材協力/JAマインズ・JA東京中央会

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