2021.08.25

働く

地域から愛される20代の若きチャレンジャー山下さん、農業の未来を考える心優しき農業男子の素顔に迫りました!

東京有数のベッドタウン、町田市で120アールの畑を管理しているのは、先日28歳になったばかりの山下潤一さん。新しい品種に積極的に挑戦し、ニーズや環境に合わせた野菜作りを心掛けています。農業の未来を見据え、コツコツと農業に打ち込む山下さんのもとを訪ねました!



農業と本気で向き合う心構えと体力がついた2年間の寮生活

クール&マイルド。二面の魅力を魅せてくれる山下さんは、農家の三代目。

山下家は現在、120アールの農地で農業を営んでいます。



「土地の一角にある小高い場所に立つと、遠くには富士山、眼の前には我が家の畑が広がっています。畑一面に葉ボタンを栽培している冬は、とてもきれいですよ。祖父と2人でそこに立つと、『潤一、この畑を頼んだぞ』とよく言われていました。景色の美しさも相まって、気がついた頃には“ここを継ぐんだ”と自然に思っていましたね」(山下さん)

かつては山下さんの祖父、祖母、父、母が農地を切り盛りしていました。4人の背中を見ながら育った山下さんにとって、就農はとても自然なことだったと言います。



山下さんは、都立園芸高校を卒業後、滋賀県にある農業のスペシャリストを育てる専門学校に進学します。

「高校3年の副担任が、農業を本気でやるなら、全国の産地や農家を知っていたほうがいいぞと言ってくれたんです。なるほどと思ったし、一度家を出てみるのもいいんじゃないかと」(山下さん)



男子ばかりの寮生活。農業の専門知識や最先端の技術、寮の規律や仲間との交流など、山下さんにとってひとつひとつが大きな刺激になりました。

「そのときの経験が今の僕の下地になっています。実習は毎日長靴で、3歩以上歩くなら走れ!というルールがあったくらい厳しかった(笑)マイペースでのんびり屋ですが、ここでものすごく鍛えられました」(山下さん)



寮と学校と実習に追われる忙しい日々に、ドロップアウトする学生も少なくなかったとか。そんななか、山下さんは無遅刻無欠席を通しました。

しかも山下さんの代は、一人も欠けることなく卒業できたそう。それだけに同窓の仲間意識はひとしお。



「学生時代の友人とは、今でも連絡をとっています。コロナ禍の前は定期的に会い、5年に一度はみんなで関西に集まったり。ここの学校は大学卒業後に入学する人も少なくないため、年齢も出身地もさまざまです。いろいろな背景を持つ仲間と切磋琢磨した経験は、僕のいい財産になっています」(山下さん)

ちなみに、山下さんは小中高時代も無遅刻無欠席だったそうですよ。



山下さんを支える祖父の言葉と、亡父の栽培ノート



山下さんの毎日は朝早くから始まります。とうもろこしが旬の今は、その日のうちに出荷して店に並べるために、朝4時には畑へ。



「多いときは、だいたい1時間半くらいかけて、160~200本を収穫します。ポキッポキッと手で折って、根元を切り落として皮をきれいに拭いて。全て手作業で出荷しています」(山下さん)



就農して8年目の現在、作業は一人で行うことが多いという山下さん。

山下さんを農業に導いてくれた祖父は、高齢のため農作業はできなくなりました。また、かつて山下家の農地を支えていた大黒柱の父、雄司さんは、6年前に病に倒れ、亡くなりました。

当時、滋賀で寮生活を送る山下さんに、両親は病気のことを伝えなかったと言います。

「父が大好きな日本酒を土産に買って帰っても、ほとんど口をつけないで他の人が飲んじゃうから、あれおかしいなとは思っていたんです……」(山下さん)

 


山下さんが父、雄司さんの状況を具体的に知ったのは、卒業して町田に戻ってきてから。

すっかり逞しくなった山下さんを頼もしそうに迎えたあと、2年ほどして帰らぬ人となりました。

「父は余命を告げられてから4年半も頑張ってくれた。そして、貴重な栽培ノートを残してくれたんです。僕がこれまで何とかやってこれたのは、それを見ながら参考にできたから。亡くなった今も、父に助けられ、支えてもらっています」(山下さん)



山下さんが就農したばかりの頃は、周囲のみんながいろいろ教えてくれたそうです。とくに、その頃80歳でまだ現役だった祖父の貞一さんは、山下さんのことが心配で心配で、農作業中の山下さんの後をずっとついてきて、黙って見守っていました。

たくさんの人に助けられて今があると言う山下さん、地元の消防団に入ったのも、その頃でした。

「もともとは父が入っていた消防団。最初は乗り気ではなかったんですが、入ってくれるよな、と言われたら断れるわけないじゃないですか。いざ入ってみると、消防団にはいろいろな職業や経験を持っている人がいるから、何かあったときも頼りになってすごく助かっています。都市型農業だからこそ、近隣の人とは仲良くやっていくことが大切なんだということもわかりました。今では僕が消防団員をリクルートしているほどです」(山下さん)



今、広い農地を実質一人で管理している山下さんは、地域密着型の農業を目指しています。

「2つの小学校に給食用の野菜を卸していますが、コロナが落ち着いて自分にも余裕が出てきたら、さつまいも堀りなどの行事を企画したり、観光農園もやってみたい。出張授業などの食農教育にも関わっていけるといいですね」と山下さん。農業と地域の未来を見据えています。

就農人口が減っている現在、こうした草の根の活動を通して、たくさんの人に農業の良さを伝え興味を持ってほしい、と山下さんは続けます。「小学生時の土いじりや収穫体験を通して、何人かが仕事としての“農業”に興味を持ってもらえたら…考えるだけでもすごくわくわくします」



自分の畑だけでなく、農業の将来にまで思いをはせる姿は、20代とは思えぬ頼もしさ。休みの日には都心のデパートまで出かけて、どんな野菜や総菜が人気なのか、チェックしているという研究熱心な山下さんです。そんな山下さんから、ひとつだけお願いが。

ゴミはゴミ箱へ!農地や自然を大切にしてほしい

「畑を、単なる草むらと思ってしまうのか、空き缶やペットボトルを捨てる人がいるんです。ポイ捨てされたゴミが農機にからまって壊れることが多くて、かなり困っています。ゴミはゴミ箱へ。ポイ捨てはしない。これが都市型農家からのお願いです」(山下さん)



悪気なくポイっと捨ててしまうことが、さまざまなトラブルにつながります。草むらだってNGですが、田畑へのポイ捨ては、機械だけでなく、私たちの食べる作物にも影響が出てきそう。

飲んだり食べたりしたとのゴミはちゃんとゴミ箱へ!これまで以上に、しっかり守っていきたいものですね。


山下潤一さん

東京有数のベッドタウン、町田市で都市型農業を営む。都市型とはいえ、切り盛りしている畑の広さは120アール。とうもろこし畑のほか、8棟のハウスでもさまざまな野菜を栽培。新しい品種に積極的に挑戦し、ニーズや環境に合わせた野菜作りを心掛けている。その日のうちに店で買ってもらえるように早朝に収穫する“朝どれとうもろこし”は、大人気。中央林間の東急ストアで購入できるほか、山下さんの野菜はJA町田市アグリハウスみなみにも並べられている。
山下さんのとうもころしが買えるJA町田市アグリハウスみなみの情報はこちらから

写真/菊地菫 取材協力/JA町田市・JA東京中央会

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